一般財団法人光文文化財団

第25回日本ミステリー文学大賞新人賞選評

候補作

予選委員7氏=円堂都司昭、佳多山大地、杉江松恋、千街晶之、西上心太、細谷正充、吉田伸子+光文社文芸局が10点満点で採点、討議のうえ決定(候補者50音順)。

「青い雪」
麻加 朋
「クラウドの城」
大谷 睦
「人間たちにはわからない」
黒澤主計
「荊姫は電気兎の夢を見る」
斎堂琴湖

応募総数132編から、1次予選を通過した21作品は下記のとおりです(応募到着順)。

「AIケイ1・0 人間のような私」
野々瀬康介
「殺しのあしながおじさん」
稲垣 影
「冤罪死刑囚の末路」
間宮 満
「三年の希望は……」
大塚 拓
「桃花源の夏」
宮代 匠
「人間たちにはわからない」
黒澤主計
「蛇なき夜に君を待つ」
川口 明
「君が口ずさむ歌を僕は知らない」
詠那 宙
「ナハトムジーク」
吉乃シマ
「断絶」
小川 結
「デュオ」
一ノ瀬 游
「荊姫は電気兎の夢を見る」
斎堂琴湖
「連続猟奇殺人鬼連続殺人事件」
夏目璃子
「新月を愛でる」
小里 巧
「青い雪」
麻加 朋
「証故品 ~特殊清掃人 小澄幸助~」
能条 空
「クラウドの城」
大谷 睦
「魔女の棲む館からの脱出」
三日市 零
「鯨の子」
玉川 透
「クレモナの匣」
安芸宗一郎
「Fの神罰」
伊藤丈太郎

【予選委員からの候補作選考コメント】

円堂都司昭

 前半は面白くても、後半に失速する応募作が多いのです。
 犯人が判明すると、共犯が多かったりする。協力する人がそれほど簡単にみつかりますか。実は彼らは血縁だった、実は因縁があったなど、狭いつながりで物語ができている例も目立つ。「実は」の偶然の連発は好ましくありません。作者にとって都合がいい人間関係を作りすぎると、読むほうはしらけます。物語を終わらせる時、安易な方法を選んでいませんか。また、終盤で話をただひっくり返すだけでは、ミステリーの意外性になりません。伏線がはられていなければ、小説が壊れただけ。
 これらの欠点を克服するには、物語の全体を考え、原稿を読み直し、前半と後半のつながりかたやバランスを調整するしかありません。この修正を思いきりよくできなければ、たとえ改稿で再応募してもよい結果は出ないでしょう。最後の頁まで面白い原稿を待っています。

佳多山大地

 予選委員の任も3年目の今回、いまだ収束せぬコロナ禍の影響から、最終候補作を決める予選会は2年連続のリモート開催に。昨年は諸般の事情で書面参加の形をとらせてもらいましたが、今年は大阪の自宅からZoom会議に臨むことができました。
 さて、今回特に気になったのは、くだんのコロナ禍で不自由を強いられる日常生活のことです。19世紀末イギリスの社会風俗を知るにはドイルのホームズ物を読むのが一番だと言われることがあるように、大衆小説であるミステリーはその国でそれが書かれた時代を映す鏡の役割を果たしてきました。風俗小説としての一面を重要な評価軸とする者としては、〈現代〉を描きながらコロナ禍の困難をまったく無視していたり、あるいは“終熄後の近未来”に安易に逃げた作品のあったことが気になりました。他の新人賞レースで落選した作品のリライト応募も目立ちますが、もしそれが現代を舞台にした内容なら、昨年来のコロナ禍の状況を反映させた手直しがあるのが最低限の姿勢だと思います。

杉江松恋

 最近の応募作を眺めて思うことは、ミステリー小説でありながら、謎解きという要素に無頓着な作品が多いということです。謎は、どのような論理によって解かれるのか。単に答えを示すだけでは不十分です。何を手がかりとして、いかなる過程を辿れば真相に至れるのか。それを書くことで読者の興趣を掻き立ててください。探偵の思考をブラックボックスにせず、どのタイミングで正答に至る道筋を発見したかを読み返せばわかるよう書くこと。これができている作品は皆無でした。
 また、一作品に一つの着想では物足りません。謎には「WHO」「HOW」「WHY」のすべてが盛り込まれていることが理想ですが、難しい場合でも、副次的な要素で補うべきです。謎解きを盛り上げる主筋をそのような形で太くした後に脇筋で遊ぶようにしてください。現在の応募作は謎解きが脇筋になっているものが多すぎます。スリルやアクション主体の作品であってもこうした点は重要ですのでご注意を。

千街晶之

 ミステリーの新人賞である以上、ミステリーとしての齟齬がないかどうか確認してから応募するのは当然だが、意外とおろそかになりがちなのが、ミステリーとしての仕掛けとはそんなに関わらない部分での設定の詰めである。ミステリーとしての出来映えが互角の原稿が二つあって、そのうち一つしか最終選考に残せない場合、あからさまなご都合主義や、矛盾した描写や、丁寧に説明すべきところを雑に書き流した箇所などがある原稿はどうしても不利になりがちだ。
 ミステリーなのだからそれ以外の部分にはさほど力を入れなくていいという考え方もあるだろうが、やはり読者や選考委員に突っ込まれそうな瑕は、たとえ小さなものであってもあらかじめ取り除いておくのが望ましい。そのためには、〆切までに余裕を持たせて書き上げ、推敲の時間をとるのがいいだろう。早めに送っても〆切ギリギリに送っても、選考にはなんら影響がないのだから。

西上心太

 たぶんプロの物書きがいちばん嫌いな事が、ゲラの訂正でしょう。原稿を出してホッとしたのもつかの間、編集者や校閲者から、誤字脱字はもとより、事実誤認、矛盾点などが赤字で指摘され、真っ赤になって戻されるのですから。それを訂正することで作品がより良いものになる。そんなことは本人だって分かっていますが、己の至らなさを突きつけられるのは辛いですよね。
 でもプロはいいんです。応募する皆さんは作品を書き上げても、問題点を指摘してくれる人はいません。せっかく書き上げた作品です。もっともっと推敲し尽くしてください。必ず応募する体裁で印刷してチェックして下さい。字間はゼロに、行間は適度に。自ずから読みやすい印刷設定も身につくはず。二次候補の約三分の一はこの原則が守られていませんでした。小説講座を開いている作家が仰ってましたが、印字が速くコストが安いモノクロレーザープリンタは必需品です。
 紙幅が尽きたので、最後に一つ。大きな嘘を作るミステリーに重要なことは、細部に宿るリアリティです。来期のご健闘をお祈りいたします。

細谷正充

 今回の下読みをしていて感じたのは、物語の求める大きさと、原稿の長さの合っていない作品が多いということです。簡単に言うと、長すぎます。そのため間延びした展開や、余計なエピソードを入ることになり、作品の評価を下げています。もう少し物語自体の大きさを真剣に考えてほしいものです。この賞の原稿枚数の下限は、400字詰め原稿用紙で350枚。それをクリアしていれば、短い枚数でも問題ありません。もちろん物語の内容が600枚を求めるというなら、上限一杯で書けばいいでしょう。
 次に指摘しておきたいのは、本当にミステリーが書きたいのかどうかという問題です。というのも投稿者が書きたい物語は別ジャンルであり、ミステリー部分を付け足しにしたような作品が散見できるからです。今、ノンジャンルの新人賞も、それなりにあります。無理をして、本賞に応募する必要はありません。ミステリーが好きで、ミステリーが書きたい。そういう人の応募を待っています。

吉田伸子

 今回、二次選考にあがった作品の中に、明らかにジャンルエラーの作品がありました(作品全体としては一次選考のレベルはクリアしているものなので、二次に残ったのです)。ミステリの新人賞にもかかわらず一次選考をクリアするだけの力はある作品なのですから、適正なジャンルに応募されていれば、と思いました。
 個人的に気になったのは、作品中の誤字・脱字です。登場人物名の打ち間違いもありました。もちろん、そのことが大きな瑕疵となり落選、ということにはなりませんが、今一度、推敲に時間を割いて欲しいと思います。締切ぎりぎりまで執筆→推敲する時間が足りない、というケースもあるかと思いますが、推敲を終えるまでが執筆、と頭の片隅にでも置いておいてもらえればと思います。

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