一般財団法人光文文化財団

第24回日本ミステリー文学大賞新人賞候補作

候補作

 予選委員7氏=円堂都司昭、佳多山大地、杉江松恋、千街晶之、西上心太、細谷正充、吉田伸子+光文社文芸局が10点満点で採点、討議のうえ決定(候補者50音順)。

「オリンピックに駿馬は狂騒う」
茜 灯里
「破綻譜セレナーデ」
麻加 朋
「ME」
椎名 勇一郎
「贖罪の羊、虎を喰む」
山本 純嗣

応募総数138編から、1次予選を通過した20作品は下記のとおりです(応募到着順)。

「殺意の灯」
倉元 良輔
「ア・ノン」
トキ・ヒロヒコ ニシヤマ
「献身じゃない」
近藤 辰巳
「鏡に真実は映らない」
黒依 ハル
「オリンピックに駿馬は狂騒う」
茜 灯里
「奪取」
西村 晃
「サイレントキラー」
早川 真彦
「ME」
椎名 勇一郎
「贖罪の羊、虎を喰む」
山本 純嗣
「ヘヴンK」
斎堂 琴湖
「善良なる獣の君と」
佐波 サバ
「正義の生贄」
及川 剣治
「傾社と没落」
広原 遼一
「獅子は甦る」
吉原 啓二
「未知の、未開の、幕が」
谷門 展法
「イディオットゲーム」
栁沼 庸介
「欲望の暗数 ~春の空は淡く霞んで~」
香坂 光洋
「アンビションサポーターズ」
折坂 則人
「破綻譜セレナーデ」
麻加 朋
「スノードロップの子供たち」
黒澤 主計

【予選委員からの候補作選考コメント】

円堂都司昭

 応募要項に則って投稿してください。小説家を仕事にしようとしているわけです。「二重投稿は失格」、「他社新人賞への主な応募歴を明記のこと」とあるのに守らない人を、出版社が仕事相手として信じられるでしょうか。
 また、原稿は読み直し、推敲してから発送してください。誰にも間違いはあります。とはいえ、ただの誤記だけでなく、途中で登場人物同士の名前をとり違えている例が意外に多い。誰が犯人かが主題となるミステリーで、そんな間違いはあまりにもまぎらわしい。
 印刷に際しては書式が崩れていないか、確認しましょう。読みにくい文字列を送るのは、選考する側への嫌がらせのようなものです。
 内容に関しては、政治家や暴力団など力のあるもの、あるいは夢や幻覚、超常現象を、作者が都合よく使いすぎているものが散見されました。偶然の多用もしらけます。安易な手段に頼らず、困難を乗り越えるための工夫をすることで小説の緊張感は生まれるのです。

佳多山大地

 前年(第23回)から新たに予選委員の任に当たることになりました。2年目の今回は、予想だにせぬコロナ禍の影響により、最終候補作を決める予選会がリモート開催に。私、大阪在住の佳多山は、諸般の事情から書面参加の形をとらせてもらいました。――その結果、本選委員のもとに送られる候補4作について言及するのは避けるとして、残念ながら1次通過止まりで終わった応募作のなかでは、現代ミャンマーの“真の独立”を主題にした『獅子は甦る』に大いに魅力を感じました。ぜひ新作を引っ提げて捲土重来を。
 さてその『獅子は甦る』にも言えることですが、この2年、予選委員を務めてみて気になるのは、いわゆる参考文献を最後に示していない応募者が多いこと。特に歴史・時代ミステリーを投じる際は、必ず記してほしいのです。どういう本や雑誌記事等を参考にしたかは、事実ベースの信頼性と作者オリジナルの発想を評価するのに関わってきますから。

杉江松恋

 応募作全般に共通することとして、練り込みの不足を感じました。思い付きをそのまま書くとだいたい、短篇を引き延ばしたような作品になります。エピソードをただつなげただけの、乾電池で言えば直列接続みたいな小説。登場人物がごちゃついていたり、要らないアクションや濡れ場が変に多かったりする話も、たぶん手軽に書きすぎなのでしょうね。取材したことを取捨選択せずに全部書いちゃってる作品も。よほどの文章家を除き、長篇小説には構成に関する技巧が必要です。だいたいの応募作は途中が退屈。中だるみさせない工夫が大事です。また、キャラクターの造形にももう少しご配慮を。ごてごてと装飾だけ多くしても「キャラ立ち」はしません。
 自分なりの技法を探してください。そのために重要なのはたくさん書き、十分に推敲して粗を探すこと。その意味でも過去作の再投稿や、同一作品の二重投稿は厳禁です。常に新しい作品を。次回も期待しております。

千街晶之

 二重投稿や過去の応募作の使い回しは減ったが、今回の一次選考を通過した作品を読むと、過去に応募した作品をリライトした原稿は増えたという印象を受ける。
 もちろん、それ自体は悪いことではないけれども、他の賞で落ちた原稿を少々手直しした程度では、やはり最終選考まで残ることは難しい。今回、最終に残った原稿にも別の賞の応募作のリライトはあるが、それは結末が一変するほどの大胆な改稿によって優れた作品に生まれ変わったからである。それくらいの思いきりもなく、少々の手直しで事足れりと考えるよりは、新作にチャレンジしたほうがいい結果が出る可能性は高いと思う。
 あと、設定の無理にせよトリックの穴にせよ、読んですぐわかるレヴェルのミスは応募前に気づいて修正してほしい。最終に残った四作品も完全無欠というわけではないが、ミスが比較的小さかった(あるいは、それを相殺する美点があった)からこそ勝ち残れたのである。

西上心太

 それぞれの着想を形にし、最終的に「小説」として完成させた労を、まずは称えたいと思います。どんなに良いアイデアがあろうとも、完成させなければ話になりません。応募原稿に仕上げただけで、皆さんはあるレベルをすでに超えているのです。
 しかしなぜ一次で落ちたのか、二次から先に進めなかったのか。読みやすいような印刷設定でしたか。誤字・誤変換のチェックは。印字して読み直せば、単純な表記ミス、同じ言葉のくり返し、意味の伝わりにくい文章などは訂正できたはずです。
 さらに、登場人物の行動や考え方が、プロットの都合で不自然になっていなかったでしょうか。小説ではなく「説明」に墮していなかったでしょうか。このあたりのことを考えるだけでも、作品の完成度は高まったかもしれません。
 皆さんにとって愛着ある作品でしょうが、ひとまずそれは忘れて、次回はまったく新しい作品で挑戦してくれることを期待しております。

細谷正充

 繰り返し訴えた甲斐があったようで、二重投稿は激減しました。しかし、その代わりのようにリライト作品の投稿が増加しています。もちろん、一度投稿して落選した作品を、改稿して再投稿するのは規約違反ではありません。ですが、小手先のリライトで満足されては困ります。作品をリライトするときは、抜本からの改良が必要でしょう。
 そもそも本賞に作品を投稿する人は、プロの作家になりたいはずです。プロになったら、新たな作品を次々に生み出さなければならないことは、いうまでもありません。それを考えれば、ひとつの作品にこだわり続けるのは、いかがなものでしょう。ひとつの作品に拘泥することなく、新たな物語に挑んでほしいのです。なぜなら本賞は、常に新たな才能を求めているのですから。
 なお、今回も規定枚数の上限ギリギリまで書いたことで、ストーリーの間延びした作品が見受けられました。自分の創り出した物語世界の分量を理解することも、プロになるための大切な資質です。

吉田伸子

 今回の応募作は、「改稿作品」が多く見られました。「改稿作品」は厳密にはNGではありませんが、確実に作品に対する印象を悪くします。理由は二つあります。一つは、作者が過去作にこだわっている=気持ちが前(新作)に向いていない、というふうにとられてしまうということ。過去作をブラッシュアップするよりも、まっさらな新作のほうに気持ちを向けて欲しいのです。もう一つは、以前も書いたかもしれませんが、「改稿」というのは、書き手が思っている以上に難しいものである、ということ。大袈裟に言えば、犯人を変えた、くらいでないと「改稿」とはなりません。書き手自身が、こんなに書き直した、と思っても、他者の目には、「どこが?」と映ることのほうが多いのです。この賞は新人賞です。求められているのは、「新しい作品」なのです。古い作品のリメイク、ではなく。応募者の方には、そのことを頭においていただければ、と思います。

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