一般財団法人光文文化財団

第23回日本ミステリー文学大賞新人賞選評

城戸喜由

受賞作:
『暗黒残酷監獄』
受賞者:
城戸喜由(きど きよし)
受賞者略歴:
1990年北海道生まれ。北海道在住。(作品応募時の筆名は城戸準吾)
選考委員:
有栖川有栖、恩田 陸、篠田節子、朱川湊人
選考経過:
応募139編から、2次にわたる選考を経て、最終候補4編に絞り受賞作を決定。

受賞の言葉

大賞

城戸喜由(きど きよし)

 三年連続全ての新人賞で一次落ちでした。さすがに三年続けば気付きます。何か根本的にやり方が間違ってるんだろうなと。 そこで今回はやり方を全面的に変えてみました。一番大きな変更点は自分の読みたいものを書くということです。 それまで私は読者はこういうのを求めてるんだろうという勝手な憶測に基づいて自分が読みたくもない作品を書いていました。 しかしそれは冷静に考えておかしい気がしたので、今回の作品には自分の〝好き〟を詰め込みました。 結果、著しく不快な主人公が出来上がりましたがそれでいいと思いました。他人がなんと言おうと自分が好きなのですから。 皮肉なものですね。他人のために書いて全て一次落ちだったのが自分のために書いたら即受賞。これはある種の寓話でしょう。 よくある言葉ですが99人に嫌われても残りの1人から熱狂的に支持されるような作品を書いていきたいと思います。よろしくお願いします。

選考委員【講評】(50音順)

有栖川有栖

 主人公の特異な視点・皮肉に満ちた独特の文体で書かれ、ミステリとしての読みどころもたっぷり備えた「暗黒残酷監獄」が受賞作にふさわしいが、 ユニークであるがゆえに賛否が分かれるだろう。はたしてどうなるか――と思いながら選考会に臨むと、案の定、評価が二つに割れた。 最終的には受賞と決まったことを喜んでいる。
 世界がしっくりこない主人公・椿太郎の世界観がストーリーを創っており、彼が他者と交われたのが〈事件の推理〉という構造もうまい。 生の意味といった謎は解けずとも、必ず答えのある謎(事件の真相)を解くことを唯一の足場に、彼は常識の外で救いを見出す。 私はとても美しいと思ったし(そして笑える)、他の選者が否定したら本作のコピーを手許に置いておくつもりだった。城戸舞殊さんのこれからに大いに期待します。
 他の候補作についても寸評を。
 主人公が四日後に起きる殺人を予知する「フランケン・ドリーマー」は、設定の似た先行作品(キングの『デッド・ゾーン』や映画『マイノリティ・リポート』等)に及ばない。 殺人予知の能力を複数の人物に信じてもらう困難さは、こんなものではないだろう。正義の在り方も主人公の最後の決断も物足りない。
「三月に舞った免罪符」は、作者の倫理観が浅く感じられた。万引を見逃すのは万引犯を育成するに等しいし、いわんや殺人を犯した警察官の罪を問わないのはどうか。 登場人物たちが過去にたまたま同じ現場に居合わせたなど、作中の世界の狭さも興を削ぐ。
「ジャンヌ・ダルクの事件簿」は、ジャンヌ・ダルクにたとえられる女性教祖が活躍しない。 怪事件だが難事件ではなく、残酷描写を作者が避けているのも本作ではプラスにならない。 人権問題に抵触するから舞台を大正末期にしたのでは。あえて踏み込み、現在に通じる残酷さであると書き切れば印象が違ったのだが。

恩田 陸

 私が推そうと思ったのは「三月に舞った免罪符」。窃盗、というのは、どちらかといえば「ありふれた」犯罪で小説のメインになりにくいのに、 この小説では、万引き、盗品転売、被災地荒らしという、さまざまな「盗み」を話の中心に据えているところを面白く感じた。 恵まれた環境なのに万引きをやめられないTV記者が自分を守るために探偵をする、というところも面白い。 ただ、他の選考委員から指摘があったとおり話が小さい上にこのラストの「正義」には首をかしげざるを得ず、強く推すことはできなかった。 「正義」という点では、「フランケン・ドリーマー」も同様。 小説そのものはよく書けているだけに、予知能力プラス予防殺人という設定は、「これが正義なのか?」を含めかなりハードルが高かったと思う。 「ジャンヌ・ダルクの事件簿」は、すんなり時代の雰囲気に入りこむことができて、面白く読んだ。しかし、これはミステリーではなく、話の筋を順繰りに追っていくだけ。 せっかくのジャンヌ・ダルクも活かしきれておらず、タイトルに偽りあり、である。 「暗黒残酷監獄」は、評価がまっぷたつに割れた。評価が分かれるというのは、その作品が個性的であることを示しているのでいいことだけれど、残念ながら、今回、私は推さないほう。 どこか壊れた登場人物ばかりの、どこか壊れた世界の小説。それがひとつの世界として成立しているのならば構わない。 しかし、私にはこの作者がそれを確信犯でやっているとは思えなかった。特に最初のほうは、まだ文章のタッチが芸になりきっていないと感じた。 そのいっぽうで、ミステリーとしては、よくできている。 すべての伏線をまんべんなく回収し(十字架と絨毯のところはよく分からなかったけど)、皮肉な結末を迎えるところなどは面白く読んだ。 個性的なことは間違いなく、ミステリーとしては面白い。だが、私にはたまたま未熟さがいい方向に働いて奇跡的にこの雰囲気を醸し出してしまった、みたいに思えるのである。 それが推せない理由だった。それでも、ここまで熱心に推してくれる選考委員を持てるということは大したものだと思い、受賞に同意した。 願わくば、すぐにでも第二作を書いていただき、私の勘が間違いで、この受賞作がフロックではなかったと早く証明してほしい。

篠田節子

 候補作四点についてそれぞれ評価が分かれたが、数値化した結果はどれもが一定以上の水準に達していた。
「三月に舞った免罪符」は多数の登場人物を組み合わせ真実をあぶり出す手順が手堅く、サイバー犯罪という素材の面白さに加え、 一テレビ記者が素人探偵として動く必然性と切迫感、策士策に溺れて破滅するラストが非常に印象的だ。 一方で物語がジオラマ的な小さく閉じた世界に収束したのは残念だった。 たとえば現役警官や記者などだれもかれもが万引きに関わり、 事件に関わる刑事二人の警察官になった動機も似通っており、しかも偶然に同じ人物から強い影響を受けている。 閉じた人間関係を外に向かい開いてやることで、より風格とスケール感のある作品になるのではないかと思う。
「フランケン・ドリーマー」はストーリー、文章、自然で説得力に富んだ心理描写などなど、ミステリに限らぬ小説的魅力を備えている作品だった。 殺人の予知夢、心的外傷と超能力の発現といった設定は新しいものではないが、起こるべき殺人の状況がその都度異なり意表をつき、私は高得点をつけた。 ただしゆかりと順一の心中には違和感が残る。 誰もが病んでいたり、凄惨な過去を背負っていたりする物語の中で、ゆかりを健全で常識的な人間として一人配置するほうが効果的ではないかと思った。
「ジャンヌダルクの事件簿」は、大正デモクラシーから軍国主義へと向かう時代背景、震災と大不況、世紀末のデカダンと国家転覆を狙う宗教団体などなど、 せっかくの魅力的な設定と素材が、変態エリートの快楽殺人に収束してしまったのが残念だった。 ミステリとしては探偵役二人の直感と推測が、その通りになる展開は物足りなく地道な謎解きが欲しい。
「暗黒残酷監獄」は言葉選びと文章のトーンに独特のセンスが感じられる。通俗的共感を笑いのめす作家的悪意も貴重。 ゲーム様の展開を見せる入り組んだ話には論理的整合性があり、本格ミステリに必要な幾何学的精神が備わっていることをうかがわせる。 何より「サイコパス」「アスペ」と同級生にあざけられる主人公が、一人称で過不足無く表現されていることにいたく感心した。 こだわりは「本質」。薄気味悪い家族関係も相まって、あり得ない物語の中で主人公の造形はリアルで魅力的だ。 登場人物の心理や行動を説明ではなくエピソードと描写で語る手腕はミステリに限らず小説一般に通用するもので高く評価したい。

朱川湊人

 今年の選考会は例年以上に長いものとなりましたが、その多くの時間が城戸準吾氏の「暗黒残酷監獄」に関する議論に費やされました。 選考委員の二人が最高得点をつけ、別の二人が最低点をつけたからです。 その極端な評価の差こそが、この作品がそれだけ異色であり、読み手を選ぶ世界観を持っている証左と言ってもいいのではないでしょうか。
 告白すると、この作品に対する私の印象は、けしていいものではありませんでした。
 どうしても主人公が好きになれず、その他の登場人物にも違和感を覚え、ブツブツ文句を言いながら読んでいたものです。 けれど、もう一つ告白してしまうと、長い原稿を何日かに分けて読んでいる時、いつも読み始める時にワクワクした感情を持っていたのも確かです。 この作品には強い磁力のようなものがあり、その世界に入り込むことに喜びを感じさせる力があるのです。それこそが、この作者の才能に他なりません。 受賞、おめでとうございます。願わくば変に丸くならず、この世界を突き進んでください。
 受賞作を相手にオーソドックスに過ぎる印象になってしまったものの、他の候補作にも美点は多くありました。 西形明将氏の「ジャンヌ・ダルクの事件簿」は読みごたえがあり、また好きな時代を舞台にしていることもあって楽しめましたが、 女性教祖の思想があまり伝わってこなかったのが残念です。 また、四日後に起こる殺人を夢に見る能力者を主軸に、彼を取り巻く人々の物語を描いた麻加朋氏の「フランケン・ドリーマー」はスリリングな作品ですが、やや飛距離不足を感じました。 特にゆかりのエピソードは蛇足に近く、物語の勢いを殺している感があります。 寺田剛氏の「三月に舞った免罪符」は二人の主人公を巧みに操って、ある殺人事件の真相を描き出した力作ですが、そのどちらにも窃盗経験があり、 重要人物である女性警官も同様であることに脱力しました。また罪を見逃すことも、やはり罪ではないでしょうか。

候補作

「フランケン・ドリーマー」
麻加 朋
「暗黒残酷監獄」
城戸準吾
「三月に舞った免罪符」
寺田 剛
「ジャンヌ・ダルクの事件簿」
西形明将

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