一般財団法人光文文化財団

第28回日本ミステリー文学大賞講評

東野圭吾(ひがしの けいご)
撮影/Shigeki Yamamoto

受賞者:
東野圭吾(ひがしの けいご)
受賞者略歴:
 1958年2月4日、大阪府大阪市生野区生まれ。大阪府立大学工学部電気工学科卒業後、日本電装株式会社(現デンソー)に技術者として入社。勤務の傍ら推理小説を執筆し、1985年、『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。1999年、『秘密』で第52回日本推理作家協会賞(長編部門)を受賞。2006年、『容疑者Xの献身』が第134回直木賞および第6回本格ミステリ大賞(小説部門)を受賞する。その後も『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で第7回中央公論文芸賞('12)、『夢幻花』で第26回柴田錬三郎賞('13)、『祈りの幕が下りる時』で第48回吉川英治文学賞('14)、また第1回野間出版文化賞(’19)、第71回菊池寛賞('23)など数々の賞を受賞する。
『容疑者X~』などの「ガリレオ」シリーズ、『新参者』『あなたが誰かを殺した』などの「加賀恭一郎」シリーズ、『マスカレード・ホテル』などの「マスカレード」シリーズと、ヒットシリーズを次々に生み出し、『白夜行』『幻夜』『虚ろな十字架』などのノンシリーズ作品も多数執筆。幅広い作風で活躍し、読者から圧倒的な人気を得てミステリー界を牽引し続けている。2023年、100冊目となる『魔女と過ごした七日間』を刊行し、国内累計発行部数が1億部を突破する。
 2009年から2013年まで日本推理作家協会理事長を、2013年から2019年まで直木賞の選考委員を務める。
選考委員:
赤川次郎、綾辻行人、逢坂 剛、佐々木 譲
選考経過:
作家、評論家、マスコミ関係へのアンケート等を参考に候補者を決定。

受賞の言葉

大賞

東野圭吾(ひがしの けいご)

 この賞の話になると、「どうして東野さんは受賞していないんですか」とよく尋ねられました。そのたびに、「選考委員は対象外なんです」と答えていたのですが、考えてみたら、ずいぶんと傲慢なことを臆面もなく口にしていたものです。その罰として、選考委員を辞めたのにいつまで経ってももらえない、という格好の悪い状況が訪れるのではないかと恐れていたのですが、早々にまぬがれて安堵しています。1985年、江戸川乱歩賞でデビューした時には、まさかこんな日が来るとは想像もしていませんでした。何よりまだ作家を続けているとも思っていませんでした。何もかも、みなさんのおかげです。ありがとうございます。

選考委員【講評】(50音順)

逢坂剛氏、赤川次郎氏、佐々木譲氏。
新人賞選考委員、左より逢坂剛氏、赤川次郎氏、佐々木譲氏。

綾辻行人氏
選考委員の綾辻行人氏は、今回は書面による参加。

赤川次郎

 今、東野圭吾さんを選出するのに、いささかのためらいもない。
 日本のエンタテインメント界を代表する作家として、すでに海外でも広く支持される存在である。
 東野さんは日本のミステリに、洗練と知的な雰囲気をもたらした。従来の、一種怪談的な要素をさっぱりと洗い流した。
 巧妙な筋立てやトリックだけで、この人気にはなるまい。
 東野さんが、どの時点で読者の心をつかむつぼを身につけたか、私には分からない。しかし、若い世代のアンテナにしっかり届く作品群は誰にも真似のできない新しさに満ちている。
 まだまだ若い東野さんの時代は、これからも続くだろう。今回の日本ミステリー文学大賞はその通過点の一つに過ぎない。

綾辻行人

 東野圭吾さんへの授賞がすんなりと決まった。本来ならもっと早くに受賞されていて然るべきところが、東野さん自身が本賞の選考に長く携わっておられたため、見送られてきた。選考委員を退かれたこのタイミングで、というのはしごく当然の流れでもあった。
 1985年のデビュー作『放課後』から40年、さまざまに作風を広げてこられた東野さんだが、創作活動の根幹には常に「ミステリー」がある。ミステリー(もちろん「本格ミステリー」も含む)という文学形式に対するこよなき愛情と信頼が、まぎれもなくそこにある。数々の文学賞を受賞されたのちも、その姿勢には少しも乱れがない。何て見事な──と、僕などは大いに感じ入ってしまう。
 国内にとどまらず、海外における評価も人気も破格。この人を抜きにして現代のミステリーは決して語れないという、まさに「巨匠」と呼ぶに相応しい存在だろう。
 東野さん、おめでとうございます。

逢坂 剛

 東野さんは、1950年代末の生まれだ、と聞く。記録によると、東野さんが『放課後』で江戸川乱歩賞を受賞したのは、1985年のことだった。引き算をすれば、東野さんが20代後半のころだ、と分かる。全受賞者の平均年齢は知らないが、その中で東野さんが若い方だったことは、確かだろう。デビュー後、何度か文学賞の最終候補に残られた記憶はあるが、なかなか受賞にはいたらなかった、と承知している。ことにメジャーの賞は、当時ミステリーや冒険小説系の作品に、あまり関心を示さない傾向があった、という印象をぬぐえない。
その中で、東野さんが『容疑者Xの献身』で直木賞を受賞されたことは、ミステリーの存在を出版界はもちろん、文壇全体にも再認識させた点で、大きな功績があったと思う。今回のミステリー文学大賞の受賞は、その点からもむしろ遅すぎたくらい、といってもいい。
 選考委員の一人として、ようやく一つ肩の荷を下ろした、との感が深い。。

佐々木 譲

 今回の日本ミステリー文学大賞を、東野圭吾さんにお贈りすることと決まった。  いまさら言うまでもなく、東野さんの作品群は、本格志向の強いものから、奇想やSFの系列作品もあれば、社会派的性格の濃いものまで多彩だ。ミステリーファンからばかりではなく、それ以外の読書好きからも圧倒的な支持を得ている。
 翻訳された作品や外国で映像化された作品も多く、日本を代表する国際的ミステリー作家と言っていい。これまで日本ミステリー文学大賞を受賞していなかったことが不思議にも思えるキャリアと言える。
 日本推理作家協会の理事長をつとめるなど、ミステリー界の隆盛のための献身にも、わたしなどはただ頭が下がるばかりだ。
 今年度、本賞を東野さんにお贈りできることは、このタイミングで選考委員である委員一同の喜びでもある。

TOPへ戻る