一般財団法人光文文化財団

第26回日本ミステリー文学大賞講評

有栖川有栖

受賞者:
有栖川有栖(ありすがわ ありす)
受賞者略歴:
1959年4月26日、大阪府大阪市生まれ。小学5年生で推理小説を書き始め、中学3年生のとき江戸川乱歩賞に応募。以後、各賞への応募を続ける。同志社大学時代は推理小説研究会に所属し、卒業後は書店に就職。1989年、『月光ゲーム Yの悲劇’88』が刊行されデビュー。以後コンスタントに活動を続け、1994年に専業作家となる。有栖川有栖をワトソン役とする二つのシリーズを軸に執筆し、火村英生が探偵の「作家アリス」シリーズでは第56回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門受賞の『マレー鉄道の謎』(2002)や『乱鴉の島』(2006)、江神二郎が探偵の「学生アリス」シリーズでは『双頭の悪魔』(1992)や第8回本格ミステリ大賞小説部門受賞の『女王国の城』(2007)など、数多くの作品を生み出す。
選考委員:
赤川次郎、逢坂 剛、佐々木 譲、東野圭吾
選考経過:
作家、評論家、マスコミ関係へのアンケート等を参考に候補者を決定。

受賞の言葉

大賞

有栖川有栖

 初めて戯れに小説を書いたのは十一歳の時。シャーロック・ホームズもどきの名探偵が登場するミステリーでした。
 ミステリーは謎解きのシーンを描くのが楽しみなので、途中で投げ出さず書き切れたのでしょう。小学五年生にして将来の夢はミステリー作家になります。
 二十九歳で作家デビューが叶って、それから三十余年。まだミステリー作家でいることを喜んでいたら、思わぬ大きな賞をいただくことになり、戸惑ってしまいました。
 歴代受賞者のリストを見直せば当惑は強まりますが、「過分の賞を受けたと感じるのなら、賞にふさわしい作家になればよい」という内なる声に従い、これまで私を支えてくださったすべての皆様への感謝を新たにして、前に進みます。
 シャーロック・ホームズに夢中だった十一歳の頃にも増して、私は今もミステリーが大好きです。

選考委員【講評】(50音順)

赤川次郎

 今回は、全く迷いなく有栖川有栖さんを推すことができた。
 ミステリーファンなら、まず誰もがこの受賞を喜んでくれるに違いない。
 長いキャリア、純粋に「ミステリーへの愛」を貫いて来られたこと、本格にこだわりながら、広く読者を獲得し続けて来たことには敬意を抱かざるを得ない。
 けれども、これだけの実績がありながら、意外に受賞歴は多くなかった。その点でも、今回日本ミステリー文学大賞を受けていただけたことは選考委員として誇らしい。
 たぶん、有栖川さんとしては「好きなことをやって来ただけ」というお気持だろう。そしてこれからも「好きなことをやるだけ」と思っておられるだろう。正に、それこそファンが有栖川さんに望んでいることなのだ。だから、これは有栖川さんの未来への賞でもある。

逢坂 剛

 有栖川有栖さんは、すでに本賞を受賞された綾辻行人さんとともに、一九八〇年代後半から〈新本格ミステリー〉の荒野を開拓し、牽引してこられた功労者のお一人である。わたしはハードボイルド、冒険系の作家としてデビューしたが、もとはといえば子供のころから、ドイルやクリスティを愛読してきた口だ。したがって、トリックものには強い嗜好があったし、事実それを意識した自作品も二、三にとどまらない。しかしいろいろな事情から、本格ミステリーだけに集中する姿勢を、取り続けられなかった。
 そうした意味でも、このコアなジャンルに徹して伝統を守り、さらに新たな地平を目指す旗手たる、有栖川さんへの今回の大賞授賞は、まことに妥当で時宜を得たもの、といわなければならない。この上は、同じ熱烈な阪神タイガースファンとして、お互いにがんばろうではないか。

佐々木 譲

 第二十六回日本ミステリー文学大賞は、有栖川有栖さんへの贈呈が決まった。
 書いているジャンルが異なっているにもかかわらず、というか、それゆえになのか、わたしには同業者である有栖川さんの仕事ぶりがとても気になっていた。
 有栖川さんの作家的ありようは、同伴者も追従者も持たずに、独立峰に挑み続けている登山家に似ている。また有栖川さんのペンネームは、いまやそれ自体がジャンル名なのかもしれないとも感じる。
 同業者としては、そのような有栖川さんの作家性にただ敬服するしかない。
 読者との交流や、ジャンルの普及に対する取り組みの熱心さにも頭が下がる。
 その有栖川さんの作家活動全般が、選考委員たちに、遅きに失することのない贈賞を迫っていた。このタイミングでお贈りできることを喜んでいる。
 有栖川さん、おめでとうございます。

東野圭吾

 有栖川有栖さんの名前は毎年のように候補者の中に並んでいて、否定的な意見を述べる委員もおらず、いつ授賞となってもおかしくない状況だった。今回、わけあって書面にての参加となったが、おそらく有栖川さんで決まりだろうと予想していた。その通りになり、よかったと思った。綾辻行人さんと有栖川さん、このお二人への授賞で、本賞による新本格と呼ばれたムーブメントの顕彰を一つ成し遂げられたように思う。
 有栖川さんとは年齢が近く、同郷でもあり、デビュー当時からその仕事ぶりには注目していたが、本格への拘りと愛情には頭が下がる。年齢を重ねるにつれ、本格トリックの創出は難しくなるはずなのに、スタイルを変えることなく書き続けられるのは、情熱が少しも衰えていないからだろう。どんな時代にあっても、本格ミステリは娯楽小説のポイントゲッターである。これからも読者を驚かせてほしい。

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