第14回日本ミステリー文学大賞講評
- 受賞者:
- 大沢在昌
- 選考委員:
- 阿刀田高、逢坂 剛、権田萬治、森村誠一
- 選考経過:
- 作家、評論家、マスコミ関係へのアンケート等を参考に候補者を決定。
- 贈呈式:
- 2011年年6月28日 東京會舘(東京・丸の内)
選考委員【講評】(50音順)
阿刀田高
ハードボイルドに憧れた青年が
――よし、小説家になろう――
と強く願った日々があったにちがいない。
必ずしもデビューは恵まれてはいなかったろう。が、新人賞ののちの努力が、この作家の資質をみごとに開花させた。
やはり当人がハードボイルド系の作品を愛して、愛してやまなかったからだろう。
読者が本音でなにを好むか、この作家の体が知っていた、と私は思う。
『新宿鮫』を始めとして刮目して見るべき作品が多い。
作家として第一人者であるばかりか、推理小説の世界を活性化させるための配慮も行き届いている。
一つには日本推理作家協会の理事長その他の立場で果たした業績が目立つが、それだけではない。
同業者の支援や新人の育成など、良識ある主張もこの人ならではのものだ。
今回の授賞は文句のないところ、心からお喜びを申し上げたい。大沢さんおめでとうございます。
逢坂剛
大沢在昌さんは、二十代前半の若さでデビューして以来三十有余年、
今日までハードボイルド派の旗手の一人として、精力的に作家活動を続けてきた。
当初は〈永久初版作家〉などと、自虐的なセリフを吐いた苦闘の時代もあったが、
一九九〇年代前半に『新宿鮫』でブレイクしてからは、つねに先頭集団に占める位置を譲ることがなかった。
日本推理作家協会の仕事についても、平理事の時代から実質的に協会を引っ張り、その発展に寄与貢献した。
今日の協会の隆盛は、大沢さんに負うところが実に大きい。
また理事長在任中も、二〇〇七年に六〇周年記念事業を成功させるなど、その功績はとどまるところを知らない。
さらに、みずから大沢オフィスを立ち上げ、作家の仕事に新しいビジネスの可能性を求めるなど、
出版界にも多大の刺激を与えた。
そうした業績を勘案すると、大沢さんの受賞はまことに時宜を得たものであり、中堅や若手の作家の励みになるに違いない。
権田萬治
大沢在昌氏は若き調査員佐久間公が探偵役として活躍するハードボイルド作品から出発したが、
『新宿鮫』(一九九〇年)によって、警察小説に新しい地平を切り開いた。
ロバート・パーカー、デニス・レヘインなどのアメリカの私立探偵小説では、
孤独な主人公が圧倒的な力を持つ巨悪と戦うために、あえて暴力的な人間と手を組むという傾向が強まったが、
大沢氏は、警察内部に留まりながら、警察権力の腐敗と凶悪な犯罪者という二つの敵に対して困難な戦いを挑む
新しい個性的なヒーローを作り出したのである。
現在、日本では警察小説ブームが続いているが、その中でも氏のこれまでの一連の作品は一際輝いて見える。
その後、氏は視野を国際的に広げ、次々とサスペンス豊かな作品を発表し、推理界に新しい刺激を与え続けている。
まさにミステリー文学大賞にふさわしい作家であり、今後の一層の活躍が期待される。
森村誠一
大沢在昌氏の受賞によって、本賞の位置は不動のものとなった感がある。
大沢氏の推理文壇に対する貢献は、いまさら言うまでもない。
その経歴を見ても、まさに受賞の機は熟した。そのキャリアと共に、いま最も輝いている作家にこそ、本賞はあたえられる。
だが、功なり名遂げた方に対する功労賞とは異なり、受賞を発条として、
さらに大きな飛躍が期待される作家に対する授賞として、大沢氏と出会えたことはまことに喜ばしい。
大沢氏の受賞によって、本賞もさらに発展するであろう。受賞者と賞の出会いが、まさにジャストミートした形である。
受賞者・本賞の今後のますますの発展が期待される。