一般財団法人光文文化財団

第26回日本ミステリー文学大賞新人賞選評

候補作

予選委員7氏=円堂都司昭、佳多山大地、杉江松恋、千街晶之、西上心太、細谷正充、吉田伸子+光文社文芸局が10点満点で採点、討議のうえ決定(候補者50音順)。

「第一号法廷の死」
伊藤信吾
「60%」
柴田祐紀
「残叫」
榛葉 丈
「夜明けの篝火」
山本純嗣

応募総数147編から、1次予選を通過した21作品は下記のとおりです(応募到着順)。

「60%」
柴田祐紀
「バブルローヤー」
上終勇士
「ウサギたちの夜」
後藤 敬
「幻影の斜塔」
勝木友香
「生きていて生きていない」
澤柳弘志
「残酷で幸福な僕たちの楽園」
友広真二
「イノセントヘイヴン」
友広真二
「情報汚染」
青城春元
「冬と夏と雪と。」
斎堂琴湖
「承継」
久司優人
「残叫」
榛葉 丈
「ディザスター・レディ」
服部 倫
「夜明けの篝火」
山本純嗣
「四番目の猿」
松田幸緒
「第一号法廷の死」
伊藤信吾
「失われゆく時を求めて」
相羽廻緒
「真贋の誤謬」
相澤優一
「探偵は最後の手段を選ばない」
佳川志乃
「なくしたものの夢ばかり見る」
小里 巧
「緋色の慟哭」
泉美咲月
「ヒーローはなぜ殺される」
和倉 稜

【予選委員からの候補作選考コメント】

円堂都司昭

 応募作に関して気になったことを二点書きます。
 謎を提示する前半は面白いのに、後半になってそれまで触れなかったことをいきなり持ち出し、真相判明に向かうと同時にばたばたと騒動が起きる。でも、前半にあった謎や犯人の動機について十分に語りきらないため、消化不良のまま終わってしまう。そんな作品が目立ちます。前半できちんと伏線を張れているか、後半が拙速になっていないか、前後のバランスに留意して推敲してください。
 また、日本ミステリー文学大賞新人賞は、ミステリーを対象とした賞です。ミステリー要素が少なく、むしろこれは恋愛小説、時代小説など別ジャンルの賞に送った方がいいのではと思える原稿が散見されます。ミステリーの賞だからといって、無理をしてミステリーにしているような例もあります。自分が本当に書きたいことを書き、その作品にふさわしい応募先に送りましょう。

佳多山大地

 予選委員の任も今回で4年目。コロナ禍のいわゆる第7波の急襲を受け、最終候補作を決める予選会は3年連続のリモート開催になりました。その3年の経験から思うのは、自分の“推し”を推し続けるボルテージがリモートだと上がりきらないということ。残念ながら今回、最終候補の最後のひと枠をめぐって推し通せなかったのが 「ヒーローはなぜ殺される」であり、僕は同作で描かれた元スーツアクターの異様な自己犠牲のロジックを大いに買っています。作者の和倉稜さん、ぜひ来年も意欲的な新作で挑んできてください。
 さて、その名も日本ミステリー文学大賞新人賞が求めているのは、現代日本のミステリーシーンにインパクトを与える「新しい魅力と野心に溢れた才能」です。手堅くまとまった応募作が不利だというわけでは決してありません。が、既存の作家の誰とも似ていない個性/アイデアが、いびつに押し出されていてほしいのです。もちろんそれには、バランス感覚も重要。自分(作者)が面白がれるものであると同時に、他人(読者)を面白がらせるサービス精神をゆめ疎かにするなかれ、です。

杉江松恋

 二次選考止まりの作品は、ワンアイデア頼りのものが多かったように感じます。そうした作品は柱の着想に脆弱性が見つかるとどうにもなりません。思いつきを一つ入れるだけで満足せず、二本、三本と添え木を。例えば謎解きだったら、犯人の意外性だけで勝負するのではなく、動機の新しさ、犯行手段の特殊さとアイデアを盛り込む必要があります。構成のバランスが悪い作品も多かったと感じました。頭が重すぎて話が動き始めるまで時間を要するもの、中だるみしてサプライズのためのサプライズでなんとか場つなぎしているもの、どちらも駄目です。途中で力尽きたのか、関係者の独白でそそくさと説明をして終わるのは最悪です。他人に読んでもらう小説なので、全般にわたって楽しませる配慮を。また、エンタメ作品の賞であるのに、スリルの醸成に無関心な書き手が多いことも気になります。どうすれば読者をハラハラさせられるかを真剣に考えましょう。読む側の気持ちになって丁寧に。

千街晶之

 二次選考には約二十本の一次通過原稿が上がってきて、そのうち四本を除けばこの二次の段階で落選が決まってしまうわけだが、それらの落選作は大まかに二種類に分類できる。どう読んでも一次通過止まりでしかない原稿と、あと一歩で最終選考まで残れたはずの原稿だ。
 後者は、最終に残った作品と比較して、水準の差はさほど大きくない場合もある。では、何故残れないのか。ひとつひとつを取り上げれば細かい瑕でしかない弱点が、「最終にあと一本しか残せない」というギリギリの局面における議論ではとんでもない致命傷と化してしまうからだ。むしろ水準の高い作品ほど、細かい瑕が命取りになってしまうと言っていい。最終に残りたければ、どんな小さな瑕もあらかじめ気づいた場合は修正しておいたほうがいい。たったひとつの瑕のせいで、貴方の数カ月の努力が無駄になってしまう場合すらあるのだから。

西上心太

 まずは思いついたアイデアを発酵させ、プロットを構成する。ミステリーでは何らかの事件が起きます。主人公は事件に巻き込まれた当事者なのか、事件を解決する側の人間なのか。あるいはその両方に関わる人物であるのか。一人の主人公ではなく群像劇を描きたいのか。あなたのアイデアは、無数のパターンに分岐していくかもしれません。
 その中から最善と思えるプロットを選び、主人公を創造し、その人物の感情を揺り動かすストーリーを紡いでいくのが次の段階でしょう。そしてそれを文章化して「小説」に仕上げていく。
 二次選考にまで残った応募作を読むと、プロットを文章化することに汲々としていて、ストーリーにまで発展し切れていない例が多く見られました。緩急がつかめず、背景や人物の説明に手間取ったり、書き込みが不足したり、結果的に読み手を飽きさせることにもつながります。何が起き、それが主人公や登場人物たちにどのような影響を与え、彼らがどのように変化していくのか。ちょっと抽象的になりましたが、一度これらのことを考えて、ご自分が好きな作家や定評ある作品を、じっくりと読みこんでみることをお奨めします。

細谷正充

 二次選考までは行く。しかし最終選考まで行かない。こういう投稿者は少なくない。
 まずいっておきたいのは、二次選考まで行った作品は、一定の水準に達しているということだ。きちんと小説として読むことができる。しかし一方で、足りない部分がある。
 もちろん足りない部分は、作品によって違う。主人公に魅力がない。エピソードの配置や構成に難がある。物語の都合で選んだだけで、取り上げた題材に興味のないことが透けて見える。現実の問題を安直に扱う。肝心のミステリーの部分が薄味。本当に足りない部分は、さまざまなのだ。
 とはいえ、足りない部分を直しても、マイナスがゼロになるだけである。二次選考に残った作品は、当然、いい部分がある。そこを伸ばすことも、同時に考えるべきだろう。自分の物語に、何が足りないのか、どこがいい部分なのか。自己を客観視することは難しいが、これを正確に見極めて、さらなる素晴らしい作品を生み出してほしいのである。

吉田伸子

 今回、二次選考に残った作品を読んでいて気になったことの一つに、せっかく大きなお話を描いているのに、そのお話を支えている細部が粗い、ということがありました。大きな嘘は、小さなリアリティを積み重ねることでいきてきます。スケールの大きなお話を描こうとする姿勢はすごく良いと思うのですが、同時に細部への目配りにも気をつけてもらえればと思います。
 もう一つは、これまでの選評にも書いてきたことですが、誤変換や助詞の間違いについて、です。誤変換なので、音から推理して読めますし、作品評価に関わる瑕疵ではないのですが(そういうことで落ちるということは決してありません)、推敲することで防げることです。できれば、応募する前に、再度の推敲をしていただければ、と思います。
 今年の二次選考に残った作品には、例年より女性の書き手が多かったことは、同性として嬉しかったです。

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